太陽がいっぱい

わたしは三億年前に死んだアンモナイトの生まれ変わりです。
何故そう言い切れるのかというと、ちゃんと記憶が残っているからです。
アンモナイトが記憶の最初で、その後の輪廻はすべて人間でした。
しかし、穴に落ちて死んだり、殴られて死んだり、人を騙してお金を奪ったりして
あまり良い人生ではありませんでした。
一度だけ、本当に人を好きになったことがありました。
その人は母親が売春婦で、父親の顔を見たことがないと言いました。
香港にかつて存在した迷宮のようなスラムで生まれ、海で狙撃されて死にました。
わたしもそのかがやかしく汚れた巨大な家で生まれ育ち、16の時にうかうかと薬漬けにされて売り飛ばされそうになっているところをその人に助け出されたのです。
あまり喋らない人でした。ふたりとも字は書けませんでした。
三億年分のすべての記憶の中で、その人の名前だけがどうしてもどうしても思い出せないのです。
ところで三億年後のいまも、アンモナイトだったわたしの体は存在していました。
NHKの朝のニュースで知りました。
堆積したわたしの殻に含まれるカルシウム成分が不純物にくっついて結晶化し
結果的にその海の透明度を高く保っているのだそうです。
明日わたしは旅に出て、その海に潜ってこようと思います。
死んだわたしの残したかけらはきっと、遂に見つからなかったあの人のからだに絡み合って、とてもきらきらしているはずです。